【後編】Oscar Mestre(オスカル・メストレ)訪問記
― ベルニア山脈の畑と、受け継がれる1921年創業のワイナリー ―
「偉大なワインは土壌から生まれる」

車で山を20分ほど登り、ベルニア山脈の麓にある区画も訪れました。
標高はおよそ750m。オスカルの自社畑の中でも最も高い区画です。
ここでは、
・鉄分を多く含む粘土質
・石灰分の豊富なアルバリサ土壌
・隆起した海底由来の岩(貝殻の痕跡も確認)
という複雑な土壌構成が見られました。
風通しも非常に良く、平地と比べて体感でも2〜3℃ほど気温が低く感じられます。
オスカルは、この区画について
「ブルゴーニュで言うグラン・クリュのようなポテンシャルがあると思っている」
と話していました。
今回の訪問で最も強く印象に残ったのは、オスカルの判断基準が常に土壌起点であることです。
彼はこう言いました。
「僕は、ブドウの出来を巧みにブレンドして“上手に”ワインを造る技術は、もしかしたら十分じゃないかもしれない。
でも、素晴らしい畑で丁寧にブドウを育てることは徹底している。
偉大なワインは畑(土壌)から生まれると信じている。」
ブルゴーニュのグラン・クリュが、必ずしも高樹齢だけで評価されるわけではない――
その思想と、彼の哲学は確かに重なっていると思います。
実際に土壌を触り、畑に立ってみると、彼のワインに感じる伸びやかな酸やほのかな塩味の背景が、少し理解できたような気がします。

貝殻の化石

かつて海底だったこのエリアに見られる、塩の塊のような石。
シャロ村の小さな食堂で

畑訪問の後は、Xaló(シャロ)村の小さな食堂 Bar Paqui(バル・パキ)へ。
地元の人たちが普段使いしている、素朴で温かい雰囲気のお店でした。
オスカルに、アリカンテに来たらこれは必ず食べないと!と勧めてもらったのが、アリカンテの郷土料理Puchero(プチェロ)。
スペイン各地のコシードに似た、冬に食べられる煮込み料理です。
特に印象に残ったのが「Pelota(ペロタ)」と呼ばれる具材。
👉 Pelotaとは
主に豚肉や牛肉のミンチにパン粉、卵、にんにく、パセリ、スパイスなどを混ぜて作る大きめの肉団子で、
地域や家庭によってレシピが少しずつ異なる、非常にローカル色の強い存在です。
滋味深いスープに、食べ応えのあるPelota。
寒い季節に体に染み入る味わいでした。
Pucheroを頼むと、まず出てくるのが、こちらのショートパスタの入ったスープ。出汁は、野菜やお肉で取った優しい出汁。

次に出てくるのが、こちらのプレート。

Pelotaと呼ばれる肉団子。ジューシーでぎっしり詰まっていて食べ応え抜群。
1921年創業のガレージワイナリーにて

午後、オスカルは「少し見てほしい場所がある」と言って、祖父の時代の醸造スペースへ案内してくれました。
そこは現在の醸造施設とは別に残る、いわばガレージワイナリー。
建物の1階部分にあり、現在は2階に叔母様が住んでいるという。
扉を開けると、そこには時間が静かに止まったような空間が広がっていました。
整理されすぎていない、しかし確かに大切に残されている設備の数々。
・当時使用していたコンクリートでできた発酵槽
・古い圧搾機
・使い込まれた樽
・日付は1970年と記載された手書きの請求書
それらがほぼそのままの姿で残っています。
オスカルは、祖父が亡くなったのが自分の誕生直前だったため、実際に会った記憶はないという。
それでも彼はこう話しました。
「ここに来ると、祖父がやってきたことを強く感じるんだ。」
フィロキセラの影響により、かつて一家はアリカンテでブドウ栽培ができなくなり、
オスカルの曾祖父の代にアルゼンチンへ移住。
そこで生まれ育った祖父が、後にアルゼンチンの経済悪化を受けて再びアリカンテへ戻り、1921年にワイナリーを創業したという。
土地を離れ、再び戻り、そしてワイン造りを再興する。
その話を聞いていると、現在オスカルが進めている挑戦の姿勢が、どこか祖父の背中と重なって見えてきます。
フードルという共通する思想

祖父の時代、ここではフードル(大樽)を使った醸造が行われていたそうです。
過度な樽香をつけるのではなく、
果実と土地の個性を前に出すスタイル。
一時代前のバレンシアワイン市場では、より濃厚で力強いスタイルが好まれる傾向もありましたが、
「祖父が造っていたワインこそ、この土地の本来のスタイルだと思っている」
とオスカルは話します。
近年、世界的にフードル使用が再評価され、導入する生産者も増えているが、
彼にとってそれは“新しい選択”ではなく、家族の歴史の延長線上にあるものなのです。
受け継がれていくワイナリー
オスカルから今後の計画についても聞くことができました。
現在彼が醸造に使用している祖父が設立したワイナリー、Bodegas Riko(ボデガス・リコ)を、正式に引き継ぐ予定とのこと。
もともと地元向けの酒屋兼雑貨店でもあったスペースを、今後は熟成庫へと改装していく構想を描いているそうです。
畑の拡張について語るときも、
ワイナリー改装の話をするときも、
彼の言葉からは単なる理想論ではなく、着実に実行へ移そうとする現実的な視点が感じられました。
今回の訪問を通して、インポーターとして感じたこと
今回の訪問で改めて感じたのは、
オスカル・メストレという生産者の一貫した思想の強さです。
流行ではなく、土地。
技術ではなく、畑。
量ではなく、質。
派手さはないかもしれません。
しかし、畑を歩き、話を聞き、時間の積み重なりを見ていくほどに、その一貫した姿勢が少しずつ伝わってきます。
これからどのように進化していくのか。
インポーターとして、長く大切に付き合っていきたい生産者の一人です。
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アリカンテのテロワールを映したオスカル・メストレのワインは、下記よりご覧いただけます。
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